境界線(20)

子どもにとっても、段階に応じた適切な境界線(以下バウンダリー)の発達が必要です。

子育ては、乳幼児期の心理的な結びつき「愛着(アタッチメント)」に始まります。

赤ちゃんはお腹がすいた時、おむつが汚れた時など様々な欲求を泣くことで表現します。

「愛着」とは親(養育者)が赤ちゃんの欲求や気持ちを読み取って、世話をすることで育まれる絆のことです。子どもは愛着が形成されることで、自分が安全であると感じるようになります。「愛着」は将来対人関係を築く土台となります。

その次にたいせつなことがバウンダリーです。自我が芽生える2歳~3歳頃に最初につくられる親(養育者)とのバウンダリーを軸として、発達段階に応じたバウンダリーがあります。親(養育者)から離れても自分で自分を守ることができる術を徐々に身につける必要があります。親(養育者)が子育てにバウンダリーを取り入れるかどうかが、子どものその後の人格形成に関わってきます。

バウンダリーの働き

復習になりますが、バウンダリーの働きは

 自分と相手とを区別する働き

お互いの価値観の違いを認め合い尊重し合えます。意見が違ったとしても、話し合って相手と価値観をすり合わせることができる。また自分が責任を取る範囲がわかります。

・自分の限界を知る働き 

自分がするべきこと、そうでないこと、自分にできること、できないことを分別することができます。

 必要なものを守り、良くないものを入れない働き

必要でないものや害のあるものに「ノー」と言うことで、自分を守り、心身をよい状態に保っておくことができます。

・人を成熟させる働き

相手が視野に入り相手の理解につながり、そこから多角的な視点が得られます。

詳しくは「バウンダリーの働き」下記ボタンよりご覧ください。

あるふたりの話

小学6年生のAさんとBさんが学校から帰ってきて家族に話しています。

Aさんが家族にした話です。

 

『今日、学校の近くにある「コンビニで万引きをしないか」と友達に誘われたけど、もちろん断った。そうしたらその子に「根性なし」と言われた。納得がいかないので「断ったからといって根性なしって言わないで」と言い返した。万引きに誘った上に、そんなひどいことを言う子はもう友達じゃないと思う。』

一方Bさんが家族にした話です。

Bさんの様子がおかしいので、家族が「学校で何かあったのか?」と訊いてみました。『今日、学校の近くにあるコンビニで万引きをしてしまった。悪いことかもしれないけど「やらないと仲間じゃない」と友達に言われた。その時にいた友達はみんなやったし、やらないとみんなを裏切るような気になったからやった。』とパニック気味でした。

AさんとBさんの違いはどこからきたのでしょうか。バウンダリーを教えていたかどうかの家庭教育の違いです。

親(養育者)の違い

Aさんは、例えば幼い頃に母親に抱きしめられている時に「もう離して」と言うと、母親はまだ抱いていたくても離して「じゃあ、今度は何をして遊びたい?」と言うのでした。父親も同じやり方でした。「ノー」と言うことを学び、親(養育者)と意見が違ったからといって、一方的に養育者の思うようにされることはありませんでした。「ノー」ということで親(養育者)との関係が変わることなく育てられました。また自分の役割を果たさなかった時や約束事を破った時の責任に対しては、罰せられることもあり、厳しく言い聞かせられましたが、追い込むような言い方はされませんでした。

一方のBさんは、例えば幼い頃に母親に抱きしめられている時に、「もう離して」と言うと、母親は「こんなに愛しているのに、なんでそんなこと言うの?」と不機嫌そうに言って離してはくれませんでした。またある時「ノー」と言ったら、「そんなこと言ったら後悔するわよ」などと怖れさせていました。父親もBさんに「ノー」と言われると「親に口答えするのか」と言っては怒り、脅すようなものの言い方をしていました。「ノー」と言うことは、母親(相手)が傷つくという罪悪感を負うこと、「ノー」と言って、自分の気持ちや考え方を伝えることはいけないことと、自分の感情や考えは内側に抑え込み、表面的に合わせていればいいと学んだのです。また自分の役割を果たさなかった時や約束事を破った時の責任に対しても、罰せられはしないものの、諭すのではなく追い込むような言い方で頭ごなしに叱られていました。

 

Bさんは自分が学んできたことで、自分自身がつぶれる結果になってしまいました。

後になる程難しい

「バウンダリー」を教えられずに育っても、いくつになってからでも適切なバウンダリーを引くことはできますが、後になる程難しくなることは確かです。子どもの頃からバウンダリーを教えられ、発達させることは、子どもにとってはとても楽に生きられる術が身についていくことになります。子どもの時の教育がいかにたいせつかはいうまでもありません。

子育てにバウンダリーを取り入れるには、親(養育者)自身が適切なバウンダリーを引けることが前提です。結婚、出産などの人生の節目でバウンダリーチェックが必要です。

例えば、自分の思い通りにならないと不機嫌になってしまう人、また自分の感情や考えを曲げてまで人に合わせすぎてしまう人などは、親(養育者)との関係で、バウンダリーが良いものであり、必要なものであることを学んでこなかった人です。

人との良い関係

人との良好な関係には愛情・尊重・信頼がたいせつです。もちろん子育てにおいても同じです。それにはバウンダリーを子育てに取り入れることが必要です。子どもは親(養育者)の思うようには育たず、育てられたように育ちます。

親(養育者)は子どもへの自らの愛情を信じ込み過ぎているところがあり、子どもの思いよりも自分の思いを優先させて押し付けてしまうことが多々あります。「良かれと思って」してきたことが、うまくいかない結果に終わることがあるのはそのためです。

 

愛ある人間関係は一方的なものではありません。幼い子どもといえども、相手の話すことをよく聞くことが基本です。人は聞いてくれる人がいてはじめて、本心を話すことができるのではないでしょうか。

参考文献 「境界線」 ヘンリー・クラウド、ジョン・タウンゼント著

 「心の境界線」 ネドラ・グローバー・タワブ著

当ブログでこれまで20回にわたり連載してきた「境界線」(バウンダリー)シリーズは、今回で一旦終わります。「バウンダリー」はとても重要なテーマですので、今後も折に触れて書いていく予定です。