タイトル境界線⑼から「境界線(以下バウンダリー)の十の法則」として「人生を考える時の基礎となる原則」を紹介しています。
前回の「尊重」・「動機」の法則に続いて、今回は「評価」・「主体性」の法則です。
自分に、そして相手に向き合うことのたいせつさについてのお話です。
「評価の法則」
ここで言う評価とは、自分の本心から出る言葉を相手に伝える時に、それが相手にとってプラスになるか、相手の心に痛みを与えて苦しみとなるかもしれないけれどそれでも伝えるのか、また相手と自分との関係にとって結果として良い方向へ進めるものであるかどうかなど自分が相手に伝えることによってもたらされる相手の痛みや、それをすることにどれだけの価値があるかを評価することを指します。
相手の心に痛みをもたらすことは必ずしも悪いことではありません。
例えば、病気になって手術をして痛い思いをしたとしても、それは一時のことで結果的には病気は快方に向かいます。
相手の心に痛みを与えてしまうかもしれないと思ったとしても、伝えるのをやめて相手との間に適切なバウンダリーを引くことを避けるのでは意味がありません。
相手がよしとしないことでも伝えること、自分のより良き人生を生きるという目的に向かうことがたいせつです。
良薬口に苦し
「忠言逆耳」(ちゅうげんぎゃくじ)や「良薬苦口」(りょうやくくこう)は、どちらも忠告は聞く側にとっては心地よいものではなく聞き入れにくいが、後で自分のためになるという意味です。
いかに忠告を聞くことが難しいかを表している四字熟語です。
どれだけ相手を思って誠心誠意伝えたとしても、相手のその時の心持ちによって伝わらないこともあります。相手があることで結果はどうなるかはわからないことだとしても、伝える価値はあるのではないでしょうか。
誰しも忠告を言うのも、聞くのも嫌なものかもしれません。
それでも人生のあらゆる場面でお互いにそれを伝えることが必要な時があります。
成長していくためには相手の話すことに耳を傾け、自分が思ったことを正直に相手に伝えることです。そうした関係性には適切なバウンダリーがあります。
「主体性の法則」
すべての人は大なり小なり心に傷を抱えて生きています。大きなものはトラウマと呼ばれています。傷があることで生きづらさを感じていたり、人間関係でうまくいかなかったり、順調な時もあるけれど悩みがあり人生に差し障っている場合は、傷の大小にかかわらずトラウマと呼べるのかもしれません。
特に幼少期では傷ついた時に、相手に自分の思いを表現し返すこと、伝えることは不可能に近く、その時に受けた傷によって押し込められた感情は消えることなく残ります。時を経てからでも、傷を受けた自分から抜け出そうとすることはとても重要なことです。
孤独の時
例えば、普段はそうでもないのに人が変わったように怒りを爆発させる人がいます。自分でコントロールしようとしてもコントロールできません。それがトラウマによるものだからです。コントロールしようとして苦しみますが、大抵は効果がありません。自分に向き合い、心の傷を手当することが必要だからです。普段自分の記憶にはないところに押し込められた怒りが目の前で起こっていることが引き金となって怒りの感情が発動して、目の前に起こっていることに対して怒りが爆発するのです。心の傷の手当をしないままなので、これまでの長年の怒りの感情が鬱積していることもあります。
逆に言うとコントロール不能な感情を抱えていて、時としてそれが出てくる場合は大きな傷があるということです。その人が怒らないことは無理ですし、周りも怒らせないことは不可能です。
怒りは自分にも相手にもわかりやすいのですが、怒りに限らず他の感情でも種々同じようなことが起こっています。
心の傷の手当
心の傷の手当には傷があることを知り、自分ではどうにもならなかったことへの怒りや憎しみの感情を感じ、言葉にする必要があります。ただ大きなトラウマを抱えている人には、言葉にすることが難しいこともありますので、言葉ではなく芸術などの方法で表現する療法が適切かもしれません。
いつまでも被害者意識でそこから抜け出そうとしなければ、その苦しさから抜け出すことはできません。大きなトラウマを抱えている場合には専門医の助けが必要です。
大きな傷も小さな傷も手当てをしないまま、起きたことに反応するという受動的で反応的で自分できちんと考えない生き方から、主体的な生き方へとシフトする必要があります。おとなになれば同じことを繰り返すのではなく、傷を手当てして、虐待するような相手からは離れ、相手に伝えるべきことは伝えるように適切なバウンダリーを引くことです。
あなたは自分の人生をどこに向かわせたいですか。
あなたは何を愛していますか。
あなたは何をたいせつに思っていますか。
それらを相手に伝えていけることが主体性のある生き方です。
あなたはもう子どもではありません。
先述したようにすべての人は大なり小なり心になにかしらの傷を抱えています。自分に向き合うことは自分でできなくはありませんが、自分の心の中を覗いてみることが怖いという思いもあるかもしれません。そんな時にカウンセリングが役に立ちます。
参考文献 「境界線」 ヘンリー・クラウド、ジョン・タウンゼント著
次回「境界線(13)」に続きます。