バウンダリーの侵害は「マイクロアグレッション」と「マクロアグレッション」のふたつに大きく分けられます。
「マクロアグレッション」は、人間関係を壊してしまい、時には人生を変えてしまうほどの大きな影響を及ぼします。それが「マイクロアグレッション」が小さな侵害、「マクロアグレッション」が大きな侵害といわれる所以です。
「マクロアグレッション」は、自分と相手との間に適切なバウンダリーがない、または曖昧といった場合に家族・恋人・職場などの身近な関係で起こります。
超満員電車に乗ると誰しも不快に感じたり疲れたりします。それは自分にここまで近づかないでというスペースにまで人が入り込んで不快に感じているからです。電車から降りた時ホッとします。心も同じで適切なバウンダリーがあると不快な状態を不快であると感じられますが、ないと超満員電車のような苦しい状況にあっても、そこから抜け出すことができなくなります。
大きな侵害の4パターン
「マクロアグレッション」が起こっているパターンには、下記があります。
いずれも抜け出しにくく、関係を変えようとすると関係そのものが破綻することがあります。
①巻き込み型
巻き込み・巻き込まれる関係です。
巻き込む人は悪気なく、相手に害を与えているという認識がない場合も多いですが、意識していてもなかなかやめられないという場合もあります。
二人の考えは常に一致していなければならないと思っていたり、個人的な情報を過剰に共有していたり、いずれも狭いスペースでの関係になっています。
巻き込まれやすい人の特徴
巻き込まれやすい人の特徴には下記などがあります。
・自分が自分であり、認められているという感覚がしっかりしていない。
・わかってほしいという気持ちが強い。
・人から嫌われたくない思いが強い。
・自分で決めることが苦手。人の意見に左右されやすく、感化されやすい。
・傷つけられているのにもかかわらず、相手を不快にさせたくない気持ちが強い。
・人とのトラブルを極端に避ける。
・人が自分をどう思っているかを気にする。いい人と思われたい。
・人との関係で臨機応変に対応できない。
・相手の感情を自分の感情のように感じてしまう。
・人の役に立ちたい、相手の期待に添いたいという思いが強い。
②共依存
共依存は、生きるために片方または両方が相手に依存しています。依存させる方は、相手の責任でつくられた危機的な状況を支えて救おうとします。相手を守ることが自分の役割だと思い込んでしまい、共依存に自分の存在意義を見出そうとします。一方相手も都合よく自分を省みることなく良くない行動をエスカレートさせ、相手に負担をかける状況を繰り返しつくりだしてしまう為社会生活も困難になる場合があります。例えばアルコール依存症や借金を繰り返す夫とそれを支える妻といった関係です。
心の拠り所という意味で支え合う関係ではなく、過剰に相手を支えようとします。苦しい状況でも、相手なしでは生きていけないような心理状態に陥っています。とても不健康な関係性です。
一対一の関係でも周りに迷惑をかけますが、例えば両親が共依存の場合の子どもへの影響はかなり大きくなります。弱い立場の人に悪影響を及ぼします。
共依存は長期にわたり、自分が何を求めているのかつかめなくなっているので、相手と離れることになった時には、人と心地よいつながりをつくることができないと感じて、生きるのに無気力になったりします。
➂反依存
反依存は適切ではない強固なほどのバウンダリーを引き、極端に人との距離を取り、親しい関係の人にも必要以上の関わりを避けるために起こります。例えば、好意を持った相手に対しても、相手から好意を向けられたら途端に連絡を絶つことがあるなどです。
子ども時代に特定の人に対して持つ情愛的な絆が持てなかったこと、早い時期から自立を強いられることなどが原因となっていることがあります。
反依存になりやすい人の特徴
反依存となる人には下記などの特徴があります。
・人を信頼できない。
・人の人生に関心が薄い。
・情緒的に人と関わることに抵抗があり、人と親しくなることが怖いとまで思っているので心を開くことができない。
・人を頼ることに強い抵抗があり、人に助けてもらうことは弱いこと、恥だと思ってしまっているので、必要な時に助けてほしいと声をあげられない。
・自分の弱さを認められないが故に、問題が起こった時に相手のせいにしてしまう。
・人生の目的が幸せになることだとすると、仕事、物事をやり遂げることが目的となっているので、周りにいる人に配慮することができず人との関係を築きにくい。
親しくなりたいと思う人に対してでも心の交流を避けているので孤独からは抜け出せませんが、人に心を開くよりはましだと思っているふしがあります。そう思うのも本人にとっては自分を守る方法なのかもしれませんが、それでは寂しい人生になることもあるかもしれません。
④トラウマによるもの
偶然起きた出来事や相手にわざと傷つけられたことでも、自分が受けるにふさわしいことだと繰り返し思い込まされています。自分は傷つけられても仕方がない存在で、自分のせいだと思ってしまいます。例えば家庭内外で起こる児童虐待や性被害などのトラウマが原因で、バウンダリーに深刻な影響を与えられている場合です。
トラウマによるつながりがある場合の例には下記などがあります。
・全てのことに悪いのは自分だと信じ込まされる。
・自分に害のある関係を断ち切っても、また再び元の不健全な関係に戻ってしまい、逃げられないと思ってしまう。
・ひどい扱いを受けても抵抗できないとあきらめてしまい、周りに相談もできない。
・相手からひどい扱いを受けたり、親切にされたりを繰り返す。
不健全な関係に気づけたとしたら、自分でバウンダリーについて学び、バウンダリーを意識することがとてもたいせつです。
参考文献 ネドラ・グローバー・タワブ著 「心の境界線」
「境界線(7)」に続く
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